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最高裁判所第二小法廷 昭和36年(あ)2299号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意について。

同一は、憲法三八条違反をいうけれども、所論各供述調書の任意性を疑うべき証跡は記録上認められないから、所論はその前提を欠き不適法であり、同二は、原審の憲法三七条二項違反をいうけれども、同条項の趣旨が裁判所は被告人側の請求にかかるすべての証人を取り調べなければならないとするものでないことは、当裁判所大法廷判決(昭和二三年七月二九日言渡、集二巻九号一〇四五頁)の示すところであるから、所論は採るをえないし、同三は、事実誤認、同四は、量刑不当の各主張であって、いずれも適法な上告理由に当らない。

弁護人森長英三郎の上告趣意第一点について。

所論は、判例違反をいうけれども、原判決の是認する第一審判決が本件につき挙示引用する各証拠を綜合すれば、被告人が原審相被告人茂木健司、第一審相被告人那波蔀らと共同正犯の関係において本件を敢行したものであることを認めるに十分であり、また、第一審判決の右事実摘示は、右各行為者間に本件犯行につき意思連絡の存したことの判示として何ら欠くるところはないものと認められ、所論各判例に相反するものとはいえないから所論は採るをえないし、その余は事実誤認、単なる法令違反の主張であって(なお、所論各供述調書の任意性を疑うべき証跡は、記録上認められない。)、適法な上告理由に当らない。

同第二点について。

所論は、判例違反をいうが、所論引用の判例は事案を異にする本件には適切でないから、その前提を欠き不適法であり、その余は事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない(なお、所論は、人体に空気を注射し、いわゆる空気栓塞による殺人は絶対に不可能であるというが、原判決並びにその是認する第一審判決は、本件のように静脈内に注射された空気の量が致死量以下であっても被注射者の身体的条件その他の事情の如何によっては死の結果発生の危険が絶対にないとはいえないと判示しており、右判断は、原判示挙示の各鑑定書に照らし肯認するに十分であるから、結局、この点に関する所論原判示は、相当であるというべきである。)。

同第三点について。

所論は、ひっきょう事実誤認の主張を出でないものであって、適法な上告理由に当らない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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